ところでこのアンプのお値段は?とおそるおそる うかがうと、名人Nさんは「100万ともいえる し、200万ともいえるが・・・」、とジロリと 拙宅のたたずまいを見渡し、「ま、25万でいい か・・・。」 それならこちらもなんとかなると、急な出費に不 満げな家内をせきたて、あり金かき集め、この 「ワタシのアンプ」を獲得した。 以来十数年、このオーデイオシステムで、主とし てJ.S.バッハの録音音楽をじっくりと味わってき た。おもえばその後オーデイオ趣味の深みにはま らず、音楽にひたれたのは幸いであった。 Yさん、Nさんに感謝。 一方音楽ソースは、 MY J.S.BAHHA.RECORD CORECTION にあるように、おおむね揃い、あとは終生このシ ステムで、これからますます音楽にひたろうとお もっていた。特にJ.S.バッハの音楽は私にとって 、聴くほどに、その世界は新しく開け、深まり、 終生の心の友、心の糧といえよう。 この2年ほどパソコンに時間をとられ、それも軌 道に乗ってきたので、また読書と音楽に戻ろうか とおもった矢先、皮肉なことに「ワタシのアンプ 」はついに寿命が尽きたようだ。このアンプの修 理も考えたが、あの頑固で、誇り高い、今やかな りのお歳であろう、名人Nさんに頼むのはおっく うであった。 残念ながらここで「ワタシのアンプ」ともお別れ |
、替わりのアンプ探しとなった。あれに替わるも のなんてあるだろうか、あっても高いだろうなあ 、と暗い気持ち、重い足取りで久しぶりに秋葉原 のなじみオーデイオ店に出向いた。なじみの店員 はまだ健在でいたが、はやってるパソコン店を横 目に不景気そうな面持ちでたたずんでいた。 見渡すオーデイオ機器の様子も大分変化していて 、なにか全体的に仰々しく軽薄な感じがし、鳴っ てる音はドンシャリでアルミ箔がペコペコしてる ような、なんとも薄っぺらいものばかりであった 。なじみの店員は昔からの私のことを知ってるだ けに、「篠崎さんに売るようなものは今はもうな いから、帰って、帰って。」と追い返されそうに なった。なじみなだけに、こちらの音へのこだわ りと懐具合を知っており、まともな音を出す物は 私にはとても手が届かないとおもってのことであ ろう。しかしアンプがなければ音が鳴らないんだ から、なんか売ってくれとたのむと、店員はシブ シブと「満足できるとしたらこんなクラスからで すかね、4、5十万はしますが・・・。」 見ると、どれもフロントパネルはシャンペンゴー ルドにギラギラと輝き、プリメインアンプのくせ に、どでかい出力メーターが二つこちらを睨むよ うに居座っている。 「なにこれ!メーター見ながら音楽を聴くわけで もあるまいし、いくら音がいいからって、こんな 大げさで下品な面構えでは、私の部屋に置く気に はなれないじゃないか!」と私は怒りを店員にぶ |
つけた。店員はタジタジしながら、やはり、との 顔つきで、「だって今はこれ付けないと売れない んですよ。アタシのせいじゃないもんで・・・。」 私は怒りと失望のまま何も買わずに店を出た。 「こうなったらいっそ、値は張るだろうがヴィン テージものの、マランツ7か、マッキントッシュ C22でも買うしかないか」と中古店をのぞいた 。中古店のオヤジは「マランツ?マッキントッシ ュ?今時そんな出物はめったにありませんや。」 とつれない。私はすごすごと店の出口にさしかか ったその時、出口足元の薄暗いところ、私の視野 の右下隅に、なにか見覚えのある姿がチラリと目 に入った。その薄暗いところをかがんでよく見る と、なんと、あの往年の名機「QUAD44+606」 ではないか!あの上品なダークマットグレーの 「QUAD」が、あたかも私が来るのを待っていたかの ように、 |