出入り口の片隅にひっそりとたたずんでいた! これは運命的出会い、ときめく胸を押さえながら、 店のオヤジに「この隅っこにあるの、いくら?」 とさりげなく訊いた。オヤジ、「15万、と消費 税ね。」私は(エッ、当時定価で45万円ぐらい したのに?プレミアムなし?)との言葉を喉元で 押さえ、「フーン、ホントに動くのかな?」オヤ ジはジレて、「ウチには動くのしか置いてません や、半年保証付き、消費税込みで15万ネ!」 実は私のサブスピーカー、書斎のJBL3ウエイ も事務所のタンノイブックシェルフも、 この「QUAD44+606」の弟分、 「QUAD34+306」でそれぞれ鳴らしてい る。なにしろこのアンプは音というより、デザイ ンが良いので使っていた。メインアンプの放熱板 は普通は背後か側面に隠されるのに、なんとこの メインアンプではラジエーターを全面フロントパ ネルに持ってきてデザイン化してしまっている。 しかもこのラジエーターはプリアンプのボリュー ムつまみをよけてすぼまり、均一な表情になるの をかわしている。上品なダークマットグレーのボ デイにパイロットランプの緑色の小さな光があざ |
やかにマッチする。コンパクトながらまことにニクい デザインである! これがジョンブル気質というのであろうか。 しかも十年近く使っていても、2台共いっこうに故障 しない。この「44+606」もけっこう保つにちが いない。これは神様の思し召し、とこの「44+606」 をさりげなく即座に購入、かなり重いのも何のその、 そのまま家に抱えるように持ち帰った。 さて、この「QUAD44+606」からのシグナルに わが「AXIOM80」は如何なる反応を示したであろ うか?!アンプに対して敏感に反応するとうわさには聞 いていたが、ホントに憎らしいほど現金に、「AXIO M80」はガラリと鳴り方を変えた。聴感上のことを言 葉ではうまく表せないが、あえて例えれば、以前のアン プによる「AXIOM80」の音の姿は、上品でしなや かな細身の熟年婦人の魅力とすれば、この新たな 「QUAD44+606」によって、「AXIOM80」 はピチピチと元気はつらつ、20代のギャルに若返った ようである。聴き初めは、今まで慣れ親しんできた、 きめ細かく物静かで上品な音の姿に対して、この若々し くパワフルな音像にはとまどいをおぼえ、少し荒削りの ところが気になった。しかし「QUAD」は、「あまり 細かいことは気にせずどんどん鳴らして音楽を楽しもう よ!」という感じで仕掛けてきた。手持ちのレコードを かけていくにつれ、「AXIOM80」と「QUAD」 がエージングされてきたのか、今までのレコードが新た な生命力を吹き込まれたかのような音楽として聴こえて きた。演奏家が生き生き、溌剌になったような気がする |
のだ。曲がダイナミックにスウィングするのだ! それと何よりも、演奏家がよかれあしかれ、如何 なる精神で、如何なる表現でしているのかもよく わかるようになった。今まで正確な演奏に納得し ていた演奏家がつまらなく聴こえ、ラフな演奏と 評価の低かった演奏家がみずみずしい魅力として 聴こえるようになった。このあたりがオーデイオ の真髄であり、オーデイオ器機の性能データーに は表れないところ、手段が目的化しないところな のだ。「AXIOM80」は主に室内楽か独奏曲 に向いているのかとおもっていたら、交響曲やジ ャズもバリバリと鳴り、「AXIOM80」はよ みがえるように元気はつらつとなってしまった。 こんな姿を隠していたのか、「AXIOM80」 よ!オマエはホントにしたたかなやつだ。この歳 になってこんなことがあるのかと驚く一方、なに か自分も若返ったような気がしてくる。 オーデイオ趣味は極めてメンタルな趣味なのだ! このオーデイオ遍歴では、ウイットあるデザイン と目的への本質、節度ある積極的表現、すぐには わからない秘められた可能性・・・等いろいろと 考えさせられた。おもえば私の住宅設計における デザイン観、価値観、目的観・・・といったもの も、けっこうオーデイオ趣味からの影響があるよ うだ。いやそれだけでなく私は、この多様な世界 のスグレものをまだまだ知り、学ばねばならない とおもうのであった。 2002年3月8日篠崎好明 |