DNAからみた家づくり
今、サイエンス・ノンフィクション(SN)が面白い−1
この文は、「住宅建築」/建築資料研究社 1992年1月号 138P〜139P「私の本棚」に掲載されたものを、初出出版社より了解を得て、加筆改修を経て再掲載するものである。

気鋭の音楽美学者、磯山雅によれば、音楽は中世ヨーロッパの大学
においては、一種の数学として理科系の科目であったとのことであ
る。*1
そしてJ・S・バッハは、その音楽に数学的秩序をもたせ、理想的
聴衆としての神に捧げたのである。*2
古生物学者であり、サイエンス・エッセイ界のスーパースター、

テイーヴン・J・グールド
によれば、晩年のゲーテは科学の論争に
加わり、芸術と科学は、はく息とすう息の如く、一つの知的総体の
相接する二側面であると考え、実践したとのことである。*3
私も近年、その二側面からなる世界こそ、しもじみと味わえる感興
の世界ではないかと思うようになった。それにしても現代は、知性
と感性とがあまりにも別々の道を歩み、真の感興の世界からかけ離
れたものになっているように思われる。
ノーベル賞物理学者リチャード・ファインマンは、「芸術家が、自
然の背後における普遍性と美と、それを支配する法則を理解してい
ない(したがってこれを作品として表すこともできない)。芸術家
はもっと科学を知り、馴れていくべきである。*4」と憂えている。
このことは建築においても、とかく感性と技術のみにはしりがちな
今日、同じことがいえるのではないかと思う。
幸いなことに、80年代から90年代になって、秀でたサイエンス
・ライターや科学者自身によって、多くのサイエンス・エッセイの
類が続々と出版されるようになった。まるで300年ほど前に一般
の人から別れて探求に旅だった科学者達が、その旅先で出会った驚
くべき世界を、一般の人に知らせずにはいられないという思いで、
メッセージを送ってくるようである。
私はこのリアリテイと意外性のある、一般人としてもきわめて興味
深く理解できる読書分野を、サイエンス・ノンフィクション=SN
と名付けてとりあげたい。サイエンス・フィクション=SFとは違
うという意味を込めて。
(SN)は人類の知的行為の果実といっても過言ではない。その果
実を味わうことで、ともすると失われかける真の感興の世界を取り
戻せるのではないかと思い、ここに私の近年読んだSNをリストに
してみた。この類のものは他にもまだいろいろあるだろうが、私の
脈絡のない読書の中から、現時点でこのリストのものがリンクする
感興の世界として浮かび上がってきたのである。住宅設計も結構知
的ゲームのようなところがある。科学者になれなくとも、“科学す
るこころ”で物事を、そして住宅を考えてもよいのではないかと思
う。
ここではさらに感興のおもむくまま、私の読んだSNの世界につい
て述べてみたい。主として生物関係の話になるが、それは物理や天
文の世界より、生物の世界は数学によらなくても専門の深淵なとこ
ろに近づけ、私にも感覚的に具体的イメージとして理解できるから
である。またなぜか生物学者には名文家で雄弁家が多い。特に進化
論についての科学者達の果てしない論争を読むと、興味深い知的ゲ
ームを観戦しているようである。
まず手始めには、元NASA研究所長ロバート・ジャストロウのも
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