今、サイエンス・ノンフィクション(SN)が面白い−2

のがよかろう。このジャストロウの三部作は、最新のマクロな宇宙
からミクロの分子の世界にいたるまで、豊富な図や写真で手際よく
紹介している。
その中での進化論物語はスリリングなものである。それによると、
130年ほど前、ダーウィンはためらいがちに進化論を発表するの
であるが、大変な反響となる。ところが直ちに熱力学の大学者ケル
ビン卿によってその説はきっぱりと否定される。つまり地球の現在
までの冷え方を計算すると地球の年齢は何千万年単位であり、ダー
ウィンのいう進化が何億年の長い期間でおこるという説は全くばか
らしいというのである。ダーウィンはケルビンの批判に深く悩み、
進化は何千万年間でおきるかもしれないとつぶやきながらこの世を
去る。ダーウィン死後22年目、ラザフォードは放射性物質の熱放
射により、地球の冷却期間がのびて、地球の年齢はケルビンの見積
より遙かに長い何十億年であることを講演する。聴衆として居合わ
せたケルビン卿は、初め居眠りしていたのであるが、そのうち目を
開け、ものすごい形相でラザフォードをにらんで立ち上がったので
ある。ここでダーウィンは救われることになるが、ジャストロウ自
身は、この進化が奇跡を生み出す直接的な証明はまだされていない
、とのべている。
この進化論物語の続きは、ジョン・グリビンの「進化の化学」で語
られる。ダーウィンと同時代、メンデルは遺伝の法則を発見するが
、当時メンデルは地味な司祭であり、数学を使う風変わりな植物育
種家として、ダーウィンほどには騒がれなかった。 死後16年の
1900年になってになってはじめてメンデルは再評価され、遺伝
学が発展する。皮肉なことにメンデルの遺伝学は既に確立していた
ダーウィンの進化論への打撃となる。つまりダーウィンのゆっくり
した変化とメンデルの劇的な変化の違いである。まもなく研究が進
み、遺伝子の小さな変化と自然発生する突然変異とが重なり、ダー
ウィンとメンデルは統合される。
ところが1970年代半ば、科学哲学者から、進化論は、淘汰され
たものが生き残るというのは、同義語反復であり、検証可能な科学
的理論ではないということで進化論の否定がおこる。これには科学
者たちは量子物理学、分子生物学から、分子時計、変異数学を用い
て唯一の進化の系図を描き、進化論は反証可能な仮説であり、検証
できることを示す。
ジョン・グリビンは遺伝学、分子生物学、量子力学を解説しながら
壮大な進化論物語を語ってくれる。
その物語に登場するなかに、断続平衡説をとなえる古生物学者、
ステイーブン・J・グールドがいる。
S・J・グールドはその学説より、むしろ一連のサイエンス・エッ
セイにより多くの人に親しまれている。グールドは、自身が癌にか
かっていることをさらりといってのけ、“私はただ、「まだですよ
、神よ、まだです」と悲壮な決意を訴えるしかなかった。百回生き
ても足りない豊饒を知りつくせるはずもない以上、そのなかのきれ
いな小石を、あと一つか二つでもながめてみたいと望むばかりでる
。”としめくくる。私がじーんとしてしまうのはそのバロック的名
文からだけではない。グールドは知性とユーモアのある語り口で自
然の摂理を、アハッナルホド!といった面白さで教えてくれる。例
えば、生物は大きくなるにつれ、数比学的にいって増加する体積に
対して不足していく表面積(それは皮膚呼吸や栄養摂取に必要)を
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