DNAからみた家づくり
                
再び、サイエンス・ノンフィクション(SN)は面白い−1
この文は、「住宅建築」/建築資料研究社 1996年2月号 88P〜89P「私の本棚」に掲載されたものを、初出出版社より了解を得て、加筆改修を経て再掲載するものである。
住宅建築誌1992年1月号の「私の本棚」欄で
、“今、サイエンス・ノンフィクションが面白い
”というタイトルの文を書いた。当時、私の脈絡
のない読書の中から一つのまとまった世界がみえ
てきたとおもわれたので、それを40冊にまとめ
て、サイエンス・ノンフィクション(SN)とし
てリストアップしてみた。
ところが今にしてみれば、まとまったかに思えた
(SN)の世界は、実はまだほんの序の口で、さ
らに広く深い世界であった。その後、この(SN)
関連書を興味のおもむくまま読み漁って、もう百
数十冊になるが、次々と興味深い本に出会ったり、
続々と出版されたりしてきりがない。
といって、ますます深まるこの世界を、誰かに語
り伝えずにはいられないという気持ちが、前回で
は語りきれなかったこともあって、ますますつの
ってくる。そこで私はまた
この欄ををいただいて
、それ以降の本の中から50冊ほどを絞り、SN
リスト(2)としてリストアップしてみた。
まずは前回でリストに加えられなかったことをな
によりも悔やまれるのは、J・D・ワトソン著の
「二重らせん」である。ジェームス・ワトソンと
フランシス・クリックの二人は1953年に、遺
伝情報とされるDNA(デオキシリボ核酸)が四
つの塩基からなる二重らせん構造であり、その構
造が自己複製し得るという、世紀の大発見を発表
する。この「二重らせん」というタイトルの本は
、発見者の一人であるワトソン自身によって、発
見にいたるまでの経過を物語り風に書かれたもの
である。物語はまだ科学者の卵であった若き二人
が、DNAが遺伝情報ではないかという匂いを嗅
ぎ付けて、研究所の中を邪魔者あつかいされなが
らも嗅ぎ廻る。二人は知り得た情報から計算をし
、ブリキの板と針金を使って模型作りを試みる。
そんな模型作りは周りの研究者から馬鹿にされ、
何度か失敗する。そのうちに塩基の化学結合がパ
ズルのように解けて、一挙にDNAの模型が出来
上がる。この模型が示す二重らせん構造は、どん
なライバルの研究者も一目で納得する説得力と普
遍的美しさを備えていた。発見者本人の語りはな
によりもリアリテイがあり、ライバル研究者との
週単位での時間競争はスリルとサスペンスに満ち
、謎解きとその成功はエキサイテイングであり、
第一級のドラマである。
この本の訳者でもあり、科学者でサイエンスライ
ターでもある中村桂子も、前回のリストに入れる
べきであったと悔やまれる。生命科学者、中村桂
子は科学のエヴァンゲリストといってよいほど、
生命科学の専門書の他に数多くの啓蒙書を著し、
幅広い分野で活躍している。とはいっても、いま
はやりのDNA研究やドーキンスのような華やか
な科学者とは冷静なスタンスをとっており、その
視点には独自のものがある。中村博士は生命をと
らえるには、DNAをミクロに分析して生物の普
遍性をとらえるだけでなく、生物の細胞内にある
DNAの総体であるゲノムを通じて、その多様性
を含めて見る必要があるという。ゲノムの中に生
物の歴史が書き込まれているに違いなく、それを
生命誌として追ってみることで生命を理解しよう
とする。中村博士は広域にわたる行動力を以て、
「生命誌研究館」を設立、現在館長をつとめられ
ている。私にとって中村桂子さんは近寄りがたい
存在であったが、NHKの講演会のシリーズでは
気軽に2ショットに応じてくれた。
 
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