おもえるものではない。多分建築に課せられがち な役割でもある、宗教や富や権力の表現によって、 本来の動機や理念が塗り込められてしまったので あろう。その点音楽は、より抽象的で無機能であ り、表現の役割から逃れやすい。 とりわけ バロック音楽は、自然の生命力を含ませて発展、 展開し、こんにちになっても現代人を魅了している。 バロックとフラクタル そこで私の知る「バロック」の特徴を列挙してみ ることにする。 グレン・グールドのバロックのように、ポリフォ ニー音楽、すなわち対位法による音楽のように、 断片的で不規則で複雑で、同様なものの繰り返し がゆらぎながら、からみ合い、秩序と無秩序のは ざまをただよう・・・といったようなところか。 そう!それらの特徴は、科学においてわずか二、 三十年ほど前に見出された「フラクタル幾何学」 「フラクタル・カオス」の世界と同じではないか !と直観的に思い至った。 そこで「バロック」と「フラクタル」を結びつけ て考えてみよう。この考えのさらなる検証とさら なる発展のために、「フラクタル」について私の 知り得るところを記述するところから始めてみた い。 |
フラクタル 「フラクタル(fractal)」という言葉は数学者 ベンワー・マンデルブロが1975年に提唱した 用語で、ラテン語のfructusの“こわれる、不規 則な断片”という意味からくるもので、名詞でも あり、形容詞でもある。(*2) マンデルブロはそれまでの科学や数学では記述で きず病的なものとして無視されてきた自然界の複 雑性、たとえばギザギザの海岸線、川や木の枝分 かれ、宇宙の不規則な分布、等の世界を積極的に 見つめ、そこから法則性を見出し、記述できるよ うにした。その世界は限りなく不規則で、断片的 で、複雑なものである。 それまでの古典的科学において、なめらかに変化 するものとして記述できる微積分の線形数学の世 界とは、まったく異なる非線形の世界である。こ の非線形の世界の姿を追ってみると、いくら細部 を拡大していっても同じような姿、自己相似形が 無限に繰り返されて現れる。 マンデルブロはこの自己相似性に着目し、これら の空間形状を一、二、三次元によって指定するの ではなく、非整数の次元によってあらわした。 そしてこれを「フラクタル幾何学」とよび、 20世紀初頭の数学者によって記述された |
「コッホ曲線」(*3) N=2 r=√3 D=log2/log√3~log4/log3 や「シェルピンスキーのギャスケット」(*4) N=3 r=1/2 D=log3/log2~1.58749 もその範疇に入れた。 |