そして海岸線や、木の枝や、草の葉、稲妻、山や 川や雲の形・・・といった自然界の姿の多くをも その範疇とした。 一部の天体や物体の動きや人工物などは線形数学 で記述できたとしても、それは自然界のほんの一 部でしかない。複雑な自然界は実は非線形の世界 、フラクタルでいっぱいであったのである! この自然界における複雑な非線形の世界は、 マンデルブロよりほんの少し前に別の科学者によ り「カオス」という概念でとらえられていたもの である。そしてこの「カオス」はフラクタル次元 でもあらわすことができるようになった。さらに マンデルブロは、レオナルド・ダ・ヴィンチの乱 流のスケッチ(*5) |
や、葛飾北斎の大波の版画(*6) などをとりあげ、すぐれた芸術家はすでにこの フラクタルの世界を知っていたようであると 指摘している。 現代の芸術家たちもすぐにこのフラクタルの世界 に関心を示した。画家のデビット・ホックニーは 自分の作品はホログラフィ的でありフラクタル的 であると考えた。 そういえば魔術的画家、 M・C・エッシャーの描く世界もずばりフラクタ ルそのものである。音楽家もすぐにその関連性に 気づき、クラッシック曲には必ず存在する基本的 フレーズの繰り返しをフラクタルと結びつけて考 えた。レナード・バーンスタインはさまざまなス |
ケールでの音楽的な自己相似性にについて述べ、 それを“音による比喩”の繰り返しと変形である と表現している。現代作曲家たちはその類似性を 指摘するだけにとどまらず、フラクタルのアルゴ リズムに従って曲をつくり、その結果絶え間ない 自己相似的な秩序を持ちながら、少しずつ予測で きない変化をするような旋律が生まれ、心地よい 緊張感を与える曲が出来上がった。(*7) フラクタルと建築 建築も本来は自己相似の繰り返しの集まるフラク タル世界の最たるものとして、その範疇に含まれ るべきではなかろうか。 例をあげれば、自然発生的には相似形の各戸の家 が集合する古き良き都市や集落、古典的には古代 ローマの水道橋のアーチ、ロマネスク修道院の回 廊、ゴシック教会のフライングバットレス、五重 の塔や城郭の幾重にも重なる屋根、部屋が雁行し て繰り返される武家屋敷・・・等。建築家による ものであれば、A・ガウデイのサグラダ・ファミ リア教会の複数の塔、F・L・ライトの空間構成 や装飾、J・ウッツオンのシドニー・オペラハウ スのシェル屋根・・・等々。 もちろん現在の建築家にもこのフラクタルの世界 を意識、無意識のいずれであれ巧みに表現してい る人は少なくない。 |