□'00年10月22日(日):アルニコマグネット
今日は子供達も出かけており、久しぶりに私の書斎で、しみじみと
JBLのスピーカーで音楽を聴いた。こうして合唱曲やオルガン曲
を聴くと、J.B.Lもなかなかいいものである。さすがはアルニコマ
グネットだ。オーデイオの音質の決めては何といってもスピーカー
である。そのスピーカーの決めては何といってもマグネットだ。この
マグネットは車でいえばエンジンのようなものであろう。このスピー
カー用マグネットの最良のものは磁束密度の高く磁気歪の少ない永久
磁石、アルニコマグネットである。(チタニコはさらにその上ともい
われているが)。しかし伝聞によると、このアルニコ成分の一つであ
るコバルトを、アメリカ軍がベトナム戦争で大量消費してしまったら
しい。戦車の車体金属をコバルト合金にすると砲弾が貫通しにくいか
らだそうだ。(または
ザイールでおきた内乱によるコバルトショック
によるともいわれている。)以来、アルニコマグネットスピーカーが
世界の市場から消えてしまった。
私のメインのオーデイオ装置は居間にある。
スピーカーは、イギリスのヴィンテージスピーカー、知る人ぞ知る幻
の名器、
GOODMANS・AXIOM80、指定ARUエンクロー
ジャー入り、である。スピーカーユニットは当時35年前ではそんな
に高くなく、たしか2万6500円くらいで、当時の中流サラリーマ
ンクラスのあこがれの的あった。スピーカー用コーン紙は硬質軽量で
サスペンション、フリーエッジレスタイプ、それをドライブするマグ
ネットはアルニコ材で、磁束密度1万7500ガウスと強力で、まる
でF1レースカーのようで、超鋭敏に反応する。このスピーカーで聴
くと、倍音の豊かで繊細な弦楽器やチェンバロの音はたまらなく魅力
的である。麻薬的な音といってもいい。私はこのスピーカーで、もっ
ぱらバッハのヴァイオリン曲やチェンバロ曲やチェロ曲を聴いてきた。
一方書斎は、JBLのスピーカーシステムである。これは運送費は別
にして、無料で取得した。というのも、私の手がけた家の改修工事が
あり、解体撤去の際、施主がこの大きなJBLのスピーカーが邪魔で、
自由処分してよいという。中身をみると往年の名機ユニット、JBL
の、ウーハーはD130、スコーカーはLE85、ツイターは075
が、バックロードホーンのバカでかいエンクロージャーに納まってあっ
た。
クラッシク音楽の私にとってはアメリカのジャズスピーカーJBLは無
縁とおもっていたが、せっかくのアルニコマグネット、磁束密度も一万
数千ガウスあるはずなので、いただいて自分の書斎に持ち込んだ。書斎
にはすでにスペアスピーカーとしてAXIOM80をバックロードホー
ンエンクロージャーにいれて聴いていた。この持ち込んだ新たなハコに
家族は仰天、今でも大きなハコ(家族にとっては名スピーカーもだだの
ハコ)があるのに、さらにこれ以上とは気でも狂ったのかと猛反発。私
の書斎とは実は名ばかり、いつもはパソコン、勉強部屋として子供達に
占拠されているので、子供達から一体どうするつもり?と詰め寄られる
。泣く泣くAXIOM80は納戸にお蔵入り、書斎ではJBLを聴くは
めになってしまった。
ところがバッハの声楽曲やオルガン曲を多く聴くようになってきた昨今、
このJBLがなかなかいいのである。AXIOM80ほどの音の定位や
繊細さはないが、オルガンの通奏低音に支えられて、合唱が奥行きをも
って広がり、アリアが美しく浮かび上がる。この年になってバッハ音楽
の新しい夜明けがはじまり、J.B.Lがそれををフォローしてくれるよう
である。
JBLでクラシック、とは不思議におもい文献をあたってみた。
JBLの創始者、ジェイムス・バロウ・ランシング氏はいつもはクラシ
ック音楽を聴き、如何にいい音で聴くか、当時開発されたばかりのアル
ニコ磁性体に着目して、工学的アプローチでスピーカーづくりをはじめ
たとのことである。氏はあまりにも採算を考えずにクオリテイを求め、
経営不振となり、首を吊って自らの命を絶ってしまった。後にJBLス
ピーカーがジャズオーデイオやロックオーデイオに君臨するのを知らず
して・・・。氏の冥福を祈る。
やはり生い立ちと素性は争えないものである。かえりみて住宅づくりも、
その住宅が求められる事由をわきまえ、技術や素材のスジを通す必要が
あるとおもえた。
 2000年10月22日               篠崎好明

GOODMANSAXIOM80

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