フラクタル・バロックの適用 私は建築の輪郭はできるだけリニアーな連続性を 断ち切るようにしている。スカイラインでは水平 線から逃れてヴォールト屋根を繰り返し、クロス させ、パラペットに段差をつける。エッジライン は壁を断片化し段状にする。さらに断片化された 壁面には出窓やスリットを多用し、のっぺりした 面になることを避ける。これらの構成要素は自己 相似的な形の繰り返しとし、それらのサイズやピ ッチを少しずつ変化させ揺らぎを加える。 さらに、建築の中でも単位節の繰り返しが最も顕 著にあらわれる部位は階段であろう。 階段は、一段ごとが人間の歩幅という限定された 単位節の繰り返しによって構成される。だから私 は階段のデザインを考えるとき、段板の繰り返し を強調するデザインとし、構造はフラクタルな力 学系の新しい直観に訴えるようなものとする。 そうすると階段の姿は、どこかで見た生物のよう な、そういえば節足動物のような、人にとってな じみがありながらも好奇心をそそるものとなる。 (*21) |
平面計画においても、内部の機能に従って各室を 分節し、フラクタル感覚で組み合わせる。ただ大 きな部屋になってしまうようなところもひとまと めにせず、それぞれゾーニングして平面的にずら し、断面的にスキップさせ、コートを割り込ませ る。敷地の広さがある程度あれば、外部空間もす べて南に集約せず、小分けにし、外周の一部を陥 入して外部と内部を入れ子細工のようにし、各室 の間にコートを割り込ませる。その結果、床面積 のわりに住宅の外周表面積が増え、どの部屋から もコートが眺められ、陽光や外気を取り入れるこ とができる。これはまさにコッホ曲線やシェルピ ンスキーのギャスケットの世界、つまり長さや表 |
面積が増えていっても面積や体積は一定をこえな いか小さくなる、フラクタルの世界と同じである。 感覚的にいっても、このような造りは生活空間に 複雑性と多様性をもたらし、ともすると自堕落な 日常性に埋没することから救い、常に新鮮な住生 活になり得るのではないかとおもう。 ・・・・ ・・・バロック音楽のように。 科学と技術と芸術 私が現代において不満とするところは、あまりに も技術が突出して発達し、科学と芸術が引き裂か れ、科学と技術、芸術と技術のみが結ばれている ところである。それでは知性と感性とがあまりに も別々の道を歩み、真の感興の世界からかけ離れ たものになってしまう。 科学と技術と芸術が一つのリンケージする世界に なってこそ、高度な文化になり得るのではないだ ろうか。 科学と芸術を関連づけた「フラクタル・バロック」 の世界を私は機会あるごとに展開していきたいと おもう。 2002年 5月 6日 篠崎好明 初出: 住宅建築/建築資料研究社 1996年2月号 |